【専門家が解説!】相続土地国庫帰属制度の手続きや費用について
相続土地国庫帰属法について
相続で取得した不要な土地を国に返せる「相続土地国庫帰属法」が2021年4月28日に国会で成立しました。
実際に利用するにはハードルが高いと思われますが、今回は相続土地国庫帰属法について、
・相続放棄との違い
・対象となる土地の要件
・申請できる人の条件
などをわかりやすく解説します。
相続土地国庫帰属法とは
相続土地国庫帰属法とは、
相続した土地を受け取りたくない場合に、国に引き取ってもらうことができる制度のことです。
「相続したけど、使う予定はなく管理が大変だから処分したい」
「親から畑を相続したけど、自分には必要ない」など
急速な少子高齢化など社会情勢の変化に伴って、
近年増加する土地を手放したい等の社会的ニーズに応えるために成立しました。
「相続放棄」や「未登記の土地があること」のデメリット
相続する土地が不要な場合に取られる方法が相続放棄です。
一方、相続をしても相続登記をせず放置するケースもみられます。
相続放棄や、未登記の土地になることでどのようなデメリットがあるのでしょうか?
1 相続人側のデメリット
・相続放棄をすると、資産価値のあるものを含むすべての相続を放棄しなければならない
・相続放棄をしても土地の管理責任義務は残ってしまう
・未登記のまま放置しても固定資産税の支払いは発生する
相続放棄をして土地を手放しても、土地の名義人は被相続人のままであり、土地の管理責任は継続します。
また相続登記をしないという方法をとっても、法律上は相続していることになるため、固定資産税の支払いから免れることはできません。
2 国側のデメリット
国や自治体が公的な事業のため用地買収をしようとしても、
土地の所有者がわからないと適正な買収ができない
相続放棄や土地の名義変更がなされずそのまま放置されることで、所有者不明の土地が増え続けています。
このような背景から相続土地国庫帰属法が制定されました。
「相続土地国庫帰属法」と「相続放棄」の違い
相続土地国庫帰属法と相続放棄の違いに関するご質問をいただくことも増えましたので、相続土地国庫帰属法と相続放棄の違いをまとめました。
違相続土地国庫帰属制度では、相続人が自分が希望する財産を手元に残して、不要な土地のみ国庫に帰属させるということができます。
相続土地国庫帰属制度を使うと「より好み」ができるということです。
※家庭裁判所に相続財産管理人の選任手続きを行い、管理のための費用(数十万〜百万円程度)を納めることで、管理義務がなくなります。
相続土地国庫帰属法の施行時期
「交付(2021年4月28日)から起算して2年以内の政令で定める日から施行」とあり、
具体的には、2023年4月27日から開始されることが決まりました。
一般的に法律は成立後、一定期間周知させてから開始されるため、すぐに施行されるわけではないんです。
申請できる人の条件のポイント
相続土地国庫帰属法は、不要な土地を持っていれば誰でも使える制度ではありません。
以下のように、「その土地をどのように取得したのか」がポイントとなります。
【申請OK】相続または遺贈により土地の所有権を取得した場合
【申請NG】売買等で土地の所有権を取得した場合
売買等で土地の所有権を取得した場合でも申請できるケースもあり!
売買で取得した土地を複数人で共同所有している場合は共有者の中に相続で持分を取得した人がいれば共有者全員で申請することができます。
AとBが共同で土地を購入
↓
Aが亡くなり、Aの持分をAの子どもCが相続
↓
BとCの共同名義の土地となる
この土地が不要となった場合、BとCが共同して行うときに限って申請することができます。
Bにとっては売買で取得した土地ですが、Cと共同することで申請が可能になる、というわけです。
相続土地国庫帰属法の対象となる土地
では相続した土地であればどんな土地でも申請できるのか、というとそうはいきません。
相続土地国庫帰属法は対象となる土地についての規定があります。
以下①~⑩のいずれにも該当していないことが要件ですが、
要するに「きれいな更地で、かつトラブルがない土地であること」が条件ということです。
①建物がある土地
②担保権または使用および収益を目的とする権利が設定されている土地
③通路など他人による使用が予定される土地
④土壌汚染対策法に規定する特定有害物質により汚染されている土地
⑤境界が明らかでない土地、その他の所有権の有無、帰属や範囲など権利関係に争いがある土地
⑥崖がある土地で、通常の管理をするに当たり過分の費用、労力を要する土地
⑦工作物、車両、樹木などが地上にあり、通常の管理又は処分をすることができない土地
⑧地下に除去しなければならないものがあり、通常の管理又は処分をすることができない土地
⑨隣接する土地の所有者などと争訟しなければ、通常の管理又は処分をすることができない土地
⑩以上に定める土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり、過分の費用又は労力を要する土地
相続土地国庫帰属制度の手続きの流れ
相続土地国庫帰属制度の手続きの流れは次のとおりです。
①承認申請
以下の書類を提出します。
1)申請書
2)添付書類
3)審査手数料
申請書の具体的な様式について、現時点(2022年6月)では決まっていませんが、承認申請者の氏名又は名称及び住所と、承認申請に係る土地の所在について記載すると考えられます。※添付書類と審査手数料についても現時点ではまだ詳細は決まっていません。
提出先についても現時点では未定ですが、法務局になると考えられます。
②要件審査・承認
承認申請がされると、対象の土地が要件に見合っているかどうかの審査が行われます。
法務局や地方法務局の職員に、
・現地調査
・申請者やその土地の関係者から事実を聴取
・追加資料の提出を要求
などの権利が与えられます。
どの程度の調査が行われるかは現時点では不明ですが、全ての要件を満たしていた場合、法務大臣から承認の通知がされます。
③負担金の納入
審査が通り承認されると、承認通知とともに負担金の額が通知されます。
承認通知を受けてから30日以内に納付をしないと承認が取り消されるので注意が必要です。
④国庫に帰属
承認されても、すぐに土地の所有権が国庫に帰属されるわけではなく、負担金を納付した時点で国庫に移転します。
土地の名義が国に変わりますが、登記手続きは国が行うので申請者が行う必要はありません。
相続土地国庫帰属制度の利用にかかる費用
前項「手続きの流れ」でも記載したように、相続土地国庫帰属制度を利用するためには負担金が発生します。
1相続土地国庫帰属法の対象の土地にするための費用
先の「相続土地国庫帰属法の対象となる土地」のとおり、土地の要件は細かく定められています。
要件をクリアしていない場合は、対象となる土地にする必要があり、それぞれの状況に合わせて費用がかかります。
例)
・建物が建っている場合→建物の解体費用
・境界が曖昧な場合→境界を確定させるための費用
2審査手数料
申請が承認されると必要になる費用です。
土地の管理には、草刈りや柵、看板の設置、巡回費用などが想定されます。
具体的な金額の算定基準については政令で別途定められる予定ですが、承認した土地の管理に要する10年分の標準的な費用の額を勘案して算定されます。
参考として、国有地の標準的な管理費用(10年分)は市街地200m2の宅地の場合で約80万円です
3負担金
遺産分割の対象となる財産の範囲を確定します。
要するに、この段階では、「何を分けるか」を全員で合意することを目指します。
当然には分割対象とならない財産についても、当事者全員が合意する限り、遺産分割の対象に組み込むことができます。
例えば、「被相続人が所有していた不動産から相続開始後に発生した賃料収入」や、「相続債務」などがこれにあたります。
相続土地国庫帰属の承認取消しの可能性
不正や虚偽があった場合、承認は取消しになります。
さらにそれにより国に損害を生じさせたと判断されると、承認申請者が損害賠償の責任を負う可能性もあります。
不要な土地を相続しても要件がクリアできていなければ、それを解決してから承認申請しなければなりません。
もし要件をクリアしていないとわかっていたにもかかわらず、それを申告せずに承認申請を行うと、虚偽の申請をしたとみなされてしまいます。
《注意》相続登記も義務化対象!
土地を相続すると、土地の所有権が相続人へ移転します。
その際に必要となる手続きが相続登記です。
現在、相続登記は任意であるため、登記申請を行わなくても違法にはなりません。
しかし、先に述べたとおり相続登記をせず放置されるケースが多く、登記記録上、所有者がわからない土地が増え続けている現状があります。
そこで相続土地国庫帰属法と同時に、相続登記の義務化が決まりました。
相続登記の期限は?
相続の開始および、土地の所有権を取得したことを知った日から3年以内です。
ペナルティは?
今後、相続登記をしなかった場合は、最高で10万円以下の過料に処するとされています。
注意すべき点は?
相続登記の義務化は、施行以前に発生した、現在放置されている土地も対象になります。
施行前に発生していた相続については、施行日である2024年(令和6年)4月1日から3年以内に所有権移転の登記(相続登記)を行わなければならなくなりました。
正当な理由がないのに申請を怠った場合は、上記のペナルティ(最高で10万円以下の過料)の対象となるので注意しましょう。
まとめ
相続登記が2024年(令和6年)4月1日から義務化されます。
不要な土地は「相続土地国庫帰属制度」によって国に買い取ってもらうこととができますが、
対象となる土地の要件が厳しく、手続きが複雑という側面もありますので注意が必要です。
ぜひ専門家へご相談ください。
相続した土地のご相談受付中
ここまで、相続した土地が不要になった場合に利用できる制度「相続土地国庫帰属法」について解説してきました。
「不要な土地を国が引き取ってくれる」となればとても便利な制度ですが、細かい用件が規定されており、利用できるかどうか自分で判断するのはむずかしいと思います。
この制度を利用するかだけでなく、
「現在、相続した土地について悩んでいる」
「相続する予定の土地について事前に対策しておきたい」
また相続土地国庫帰属法に合わせて相続登記も義務化されます。
「相続登記手続きをまだ済ませていない」
「相続登記をしたかどうかわからない」
という方もぜひご相談ください。
その他、遺産分割協議の注意点については下記をご参照ください。
注目の相続登記義務化についても、改正点については別の記事で詳しく解説していますので確認してみてください!
この記事を担当した司法書士
司法書士サンシアス
代表
丹 茂孝
- 保有資格
司法書士 行政書士 土地家屋調査士
神奈川県司法書士会登録第1426号
簡裁訴訟代理権認定番号第601465号
神奈川県行政書士会登録登録番号第16090386号、会員番号5077号
神奈川県土地家屋調査士会登録第3030号
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員
一般社団法人家族信託普及協会会員- 専門分野
-
不動産登記全般、相続全般
- 経歴
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神奈川県司法書士会所属。平成18年度に司法書士試験に合格し、平成20年に神奈川司法書士会に登録。平成21年に行政書士試験合格。平成27年に土地家屋調査士試験合格。平成28年に行政書士と土地家屋調査士も登録。地域では数少ない、司法書士と行政書士と土地家屋調査士のトリプルライセンスを保有している相続の専門家として、横浜市内の相続の相談に対応している。