相続手続きの期限が過ぎてしまった場合の対応方法
お葬式の手配、遺産相続の手続きなど、大切なご家族が亡くなってすぐは忙しい日々が続きます。
精神的にも肉体的にもつらい時ですが、相続の手続きには期限があります。
さらに期限のある相続手続きは意外と多く、かなりの時間と労力が必要となります。
本記事では、
・期限のある相続手続き、手続きの内容
・手続き期限を過ぎた場合の損失
・手続き期限を過ぎそう
・過ぎた場合の対処法
を中心に司法書士が解説します。
相続手続きに不安を抱えている方はぜひ参考にしてください。
相続手続きの期限を過ぎたらどうなるの?
相続手続きの期限を守ることは、相続人にとって損失や予期せぬトラブルを避けるために重要になります。
期限を過ぎてしまった場合、以下のリスクがあります。
・過料が課せられる可能性がある
・受け取るべき資産を受け取り損ねる可能性がある
・税金が増額する可能性がある
・借金を背負うことになる可能性がある
では実際に期限のある相続手続きはどのようなものがあるのでしょうか?
期限のある手続き一覧
・相続放棄・限定承認
・準確定申告
・相続税の申告
・遺留分侵害請求
・生命保険金の請求
・相続登記
・相続税の還付
これらは期限が過ぎる前に手続きをする必要があります。
それぞれの手続きによって期限が違うので、注意が必要です。
手続きによっては期限延長などを行えるものもありますので、以下で解説してきます。
3ヵ月以内に行うこと = 相続放棄&限定承認
一番最初に期限を迎えるのが「相続放棄」と「限定承認」です。
これらは相続の発生を認知した日から3か月以内に行う必要があります。
この3ヵ月間はを熟慮期間と呼ばれ、期限内に手続きが不可能の場合は期限の延長もできる手続きです。
どちらの手続きも家庭裁判所が指定する書類の提出が必要になります。
書類が受理されるまで1,2か月かかりますが、提出期限が3か月以内ですので、受理時点で期限をすぎていても問題ありません。
必要な書類は地域によって差がありますが、以下の資料などが必要になります。
・相続放棄の届け出
・戸籍謄本
・相続人の身分証明書
・死亡診断書
・財産管理に関する書類
熟考期間の延長を行いたい場合、期限内に家庭裁判所への申告が必要になります。
数か月間猶予されることが多いですが、3か月を過ぎて借金が発覚した場合の申告は受理されにくいので注意が必要です。
このような場合は専門家への相談をお勧めします。
相続放棄とは?
相続放棄とは、相続人が自身の法定相続分を放棄することを意味します。
・相続人が相続財産に対して負債や責任を負いたくない場合
・相続財産が多額の債務を抱えている場合
・財産を特定のひとに相続させたい場合
などに選択されることがあります。
相続放棄が成立すると、相続財産は放棄した相続人を除く他の相続人に分配されます。
相続人がいなくなった場合は、法定相続順位に従って次の相続人が相続することになります。
具体的に限定承認とは?
限定承認とは、資産からマイナス資産をのぞいたプラス分のみを相続することです。
相続は価値のある財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。
・債務がどれだけあるか分からず不安な場合
・債務超過に落ちっていてもプラスの財産を相続したい場合
などに選択されることがあります。
3ヵ月以内に限定承認や相続放棄の申告を行わない場合は、プラスの財産もマイナスの財産も相続する(単純承認)ことになります。
4ヵ月に以内に行うこと = 準確定申告
準確定申告は期限を延長できない手続き、かつ時間のかかる手続きのため注意が必要です。
準確定申告とは?
準確定申告とは、被相続人(故人)に代わって相続人が確定申告を行うことです。
下記に当てはまる人は準確定申告の対象となります。
・故人に事業所得や不動産所得があった場合
・故人が複数の企業から収入を受け取っていた場合
・故人が2,000万円以上の給与を受け取っていた場合
・故人の公的年金による収入が400万円以上ある場合
・故人が確定申告によって還付金を受け取れる場合
手続きには相続人全員が共同で連署・押印した確定申告書が必要になります。
その他、順確定申告に必要な申告書などがあります。
ボリュームのある手続きですので、早めに取り掛かる必要があります。
期限が過ぎてしまったら?
準確定申告の期限は4か月です。
この期限をすぎてしまうと「延滞税」と「無申告加算税」の納税が必要になります!
注意が必要です!!
10ヵ月以内に行うこと = 相続税の申告&納付
相続税の申告と納付期限は、相続の発生を認知した翌日から10か月です。
10ヵ月以内に、相続税の納付まで済ませる必要があるので注意が必要です。
期限を過ぎてしまうと、延滞税の支払い義務が生じます。
相続税は、条件によって延納や物納も可能なので、ぜひ以下を記事を参考にしてください。
相続税とは?
相続税は、故人が亡くなった後にその遺産や財産を受け継ぐ相続人が支払う税金のことです。
相続税の対象となる財産は、不動産、預金、株式、債権、絵画や宝石などの貴重品、事業の持分、年金などさまざまな財産が含まれます。
相続税の申告が必要な相続は「遺産総額が基礎控除=3,000万円+(法定相続人の数×600万円)を超える場合」です。
相続税の納付方法は、原則として現金一括払いです。
例外として、期限までに現金一括での納付ができない場合、延納や物納などでの対応が可能になる場合もあります。
1年以内に行うこと = 遺留分侵害額請求
遺留分侵害額請求の期限は、相続を開始した日から1年以内、もしくは遺留分の侵害に気付いた日から1年以内です。
また相続開始から10年で遺留分侵害権が消滅します。
期限が過ぎ、権利が消滅してしまったら、たとえ不公平な遺言や贈与であっても受け入れなければいけなくなるので注意が必要です。
遺留分侵害額請求とは?
遺留分侵害請求とは、法定相続人が最低限相続することができる財産を下回っていた場合、不足分を他の相続人に請求することができる権利のことを示します。
被相続人が相続人に対して、不公平な遺言や贈与を残している場合などに遺留分が侵害されたとなります。
相続人の数が増えたり、特定の相続人に遺産が集中したりすることで遺留分を下回ることが原因です。
遺留分侵害請求の手続きを行えるのは、遺言や贈与が不公平で遺留分を下回る場合の法定相続人です。
したがって、配偶者、子供、孫、両親、祖父母には遺留分侵害請求の権利が認められますが、兄弟姉妹や甥姪には認められません。
遺留分侵害請求の手続きを始める際、まずは遺留分侵害請求書を侵害者に対して内容証明郵便で送付します。
金銭のやりとりは実際には1年以上かかる場合でも問題ありませんが、この手続き自体は1年以内に行う必要があります。
侵害者が通知書を無視する場合、遺留分侵害額請求調停の申立を家庭裁判所に行います。
それでも解決しない場合は、最終的には地方裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起し、支払いを求めることができます。
3年以内に行うこと = 生命保険金の請求&相続登記
生命保険金の請求期限は、相続の発生を認知した日から3年です。
生命保険金の請求とは?
生命保険金の請求とは、被相続人が指定した受取人が死亡保険金を受け取るための手続きのことを示します。
生命保険金(死亡保険金)は遺産分割の対象ではなく、被相続人の指定した受取人が単独で受け取れます。
ただし、相続税は課されますので注意してください。
生命保険請求の手続きは、被相続人が指定した生命保険の受取人が行います。
指定された受取人は、死亡保険金受取書や死亡診断書、死亡を確認できる住民票などを準備して保険会社に請求をします。
請求期限の3年を過ぎてしまった場合でも死亡保険金を受け取れるケースがあります。
原則として、請求期限は相続の発生を知った日から3年ですが、3年以上たって
請求を行いたい場合は生命保険会社の相談窓口か専門家に相談することをおすすします。
相続登記とは?
2024年4月1日より、相続登記が義務化されます。
2024年より前に相続した土地も相続登記の義務化の対象になります。
期限の3年を超過した場合、10万円以下の過料を科されることがあるの注意が必要です。
相続登記とは、故人が残した不動産を相続人が相続した際に登記(名義)を変更する手続きのこと示します。
相続登記の手続きは、面倒でかなりの時間がかかります。
申請書、申請に必要な各種証明書の量が多く、細かい確認が必要です。
必要書類の作成・準備が完了したら、その土地を管轄する法務局に登記の申請を申し込みます。
申請方法は、郵送で必要書類を送付するか、管轄する法務局に直接も持ち込むかのいずれかです。
遺産分割協議が長引き、3年以内に相続登記ができない場合は相続人申告登記を行います。
相続人は法務局の登記官に対して相続人申告登記を申請し、相続人が確定した日から3年以内に正式な相続登記を行います。
5年10ヵ月以内に行うこと = 相続税の還付
相続税の還付の手続き期限は、相続の発生を認知した翌日から5年10ヵ月以内です。
相続税の還付とは?
相続税の還付は、相続税を払いすぎた場合に払い戻ししてもらえる制度です。
不動産評価額が間違っていた場合や、相続税の計算が間違えていた場合、控除や特例の適応を忘れていた場合は、相続税を過剰に払っていることになります。
このような場合には還付を受け取ることは可能ですが、面倒な作業が増えるだけですので相続税申告のタイミングでミスがないように確認しましょう。
還付請求の方法は、相続税申告を行った税務署にて更正の請求を行います。
相続税を過払いしていると感じた場合は、専門家にぜひ相談してみてください。
期限のない相続手続きはどうしたらいい?
ここまで期限のある相続手続きについて詳しく説明しましたが、期限のない相続手続きも存在します。
・遺言書の検認
・遺産分割協議
以上の2つは期限のない手続きですが、期限がないから不必要という訳ではありません。
遺言書の検認を行わなければ、被相続人の財産の全体が分かりません。
財産がわからなければ遺産分割協議を進めることができません。
遺産分割協議が進まなければ、不動産登記を進めることができません。
期限がないからといって手続きを放置すると、後の手続きが遅れる可能性があるため、早めに進めることが重要です。
当事務所では無料相談会を実施しております。
相続手続きは、とても複雑で面倒です。
ただでさえ面倒な相続ですが、相続人が多い場合や争いがある場合はより一層複雑で長期化しやすくなります。
争族にならないため、期限内で手続きを完了させるためにも是非はやめに専門家へ相談してください。
当事務所では、相続手続きに関する悩み・疑問をお持ちの方向けに無料相談会を実施しております。
相続の専門家である司法書士が親切丁寧にみなさまのお話をお伺いいたします。
この記事を担当した司法書士
司法書士サンシアス
代表
丹 茂孝
- 保有資格
司法書士 行政書士 土地家屋調査士
神奈川県司法書士会登録第1426号
簡裁訴訟代理権認定番号第601465号
神奈川県行政書士会登録登録番号第16090386号、会員番号5077号
神奈川県土地家屋調査士会登録第3030号
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員
一般社団法人家族信託普及協会会員- 専門分野
-
不動産登記全般、相続全般
- 経歴
-
神奈川県司法書士会所属。平成18年度に司法書士試験に合格し、平成20年に神奈川司法書士会に登録。平成21年に行政書士試験合格。平成27年に土地家屋調査士試験合格。平成28年に行政書士と土地家屋調査士も登録。地域では数少ない、司法書士と行政書士と土地家屋調査士のトリプルライセンスを保有している相続の専門家として、横浜市内の相続の相談に対応している。